位相反転回路(ムラード型)

回路の考察を書くのは初めてですね。此処へ来られる方々でしたら、無用の長物。

で、昨日面白い症状を見せたアンプが修理に入って来たのです。

お客様からの依頼は『電源が入らない。』

一見して直ぐに原因が判りました。ヒューズホルダーが破損していたのです。ヒューズホルダーを交換して一件落着。

アンプの電源SWをON。各部の電圧をテスターで測ります。全てOK。20年以上頑張っているアンプとは思えませんね。

で、此処でお客様に返したら、僕の仕事ではない。

しつこいのです。入力にサインウェーブを入れ、出力端子にダミーロードを接続。そのダミーロード両端に出てくる波形を見るのです。

綺麗なサインウェーブが出て来ました。まあ普通なら此れでOK。

僕は更に周波数をスィープ。

此処で僕は大笑い。フォノイコライザーが入っているのかい?

つまり、周波数が高く成ると、波高値が低く成るのです。

ついでに矩形波を入れると、フォノイコライザーを通した時とそっくりに、形の崩れた波形が出て来ます。

フーーン。6dB/octで高域が落ちてるな。

ムラード型に周波数を弄る部分は・・・・・・?

此処で、ムラード型の標準回路。知ってますよね。

此処でムラード回路の動作の復習です。知ってる方は読み飛ばして下さい。

V1のプレートに出力が表れます。V2とは直結回路。V2のプレートに入力と逆相の出力が表れます。出力レベルはV2のμで決まります。(μ=増幅率)

出力管のV4のグリッドへ入り出力されます。

問題はV3の動作。グリッドはC1で交流的にアース。つまりグリッドへの信号レベルはゼロ。

じゃあ、V3はなぜ働くのでしょう?

V2の動作を考えて下さい。

V2はグリッドへの入力信号で動作します。真空管の動作は、グリッドの電圧変化でプレート電流の変動と言う形で増幅。負荷抵抗で電流変動を電圧変動に変換します。

つまり、プレート負荷抵抗と同時に、カソードのバイアス抵抗の両端にも電圧変動が起こるのですね。

結果、V3はグリッドは電位変動はゼロで、カソードが振られるのです

V3のカソードが振られますので、相対的にカソードとグリッドの電圧関係は、グリッドを振ったのと同じ事に成るんですね(真空管はグリッドとカソード間の電位変動で動作します)。

真空管の各電極の位相関係はグリッドとカソードは同相。プレートは逆相です。

V2のグリットが+に振れたとしますね。そうするとV2のプレートには−が表れます。

と同時にV2のカソードにも+が表れます。

カソードが+に振れると言う事はグリッドとカソードとの相対関係で、グリッドが−に振れる事と同じ。

と言う事はプレートに+が表れます。

此れで、V2とV3の出力は逆相に成ります。

で、問題。グリットを振った時と、カソードを振った時ではμが変わります。カソードを振った方が小さく成ります。

その調整に、R3,4の抵抗値を変えます。勿論4の方が若干大きめ。位相反転段にECC82を使ったら、1割がた大きく成ります。

さて、動作が判った所で、周波数特性が変わってしまう原因を考えましょう。

判りました?

原因はR1の不良(じゃ、ないか?)。本来高抵抗ですので、V1のグリッド信号をキッチリ守りますが、此れが不良に成るとC1がハイカットフィルターに成ってしまうんですね(と、思う)。

こんな症状は、初めて見ましたから、最初は?落ち着いて考えると・・・・・。

で、実は困った事に。

小休止して原因を考えている間、アンプはお休み。再度電源を入れたら、症状が出ないのです。何度見ても出ない。

と言う事で、今回の修理は見込み修理です。勿論R1は交換して置きました。

この仮説、有っているかは・・・・?

 

そう言えば過去に面白い話が・・。

ある自作マニア、僕の話を聞きかじっていたので、NFを避けようとした。普通のカソードにはパスコンが入って、電流帰還を防いでいる。

ムラード型を作った時に、R2へパスコンを入れてしまったのです。結果は判りますよね(笑)。

 

それと大事な点。

V2,3は前段との直結。つまりグリッド電圧はV1のプレート電圧と一緒。真空管の動作の基準で、カソードの電位はグリッドよりも高いのが一般的(極特殊な真空管以外は有り得ません)。

と言う事は、V2,3のカソード電位はV1のプレートよりも高いのです。アンプによっては120V位の電位を持ちます。

此処で問題。カソードの中にはヒーターが。このヒーターはシャシに落ちていて電位はゼロ。

つまりヒーターとカソード間の電位差が大きいのです。

一般の真空管、ヒーター、カソード間の耐圧は100V。

判りましたよね。非常に危険な回路なんです。

対策は・・・・・。

ヒーターに数十ボルトの電圧を掛けてやります。B電圧をブリーダー抵抗を利用して分圧します。

かなり有名なメーカー製のアンプでも、此れをやっていない物が有るのは一考です。

自作アンプでやっていない方は、簡単ですから直ぐに対策を。真空管が悲鳴を上げていますよ。

 

あ、アルテック型(P-K分割)の考察はまた別の機会に・・。

 

2011.9.20

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