僕には出来ない

僕はこの様な仕事をしているのに、フェアーの類やどこどこの試聴室と言ったところには、全然出入りをしていない。

向学心が無いと思われるかも知れないが、あの様な処へ行って、何が判るのだろう。少なくとも僕には何も判らない。

たとえばスピーカーの試聴会。アンプも知らなければ入力ソースも判らない。其処で出て来た音から、スピーカーの音だけを分離して聞く特殊能力を、僕は持ち合わせていない。

偶々、その時偶然に相性が良ければ良い感じに鳴ってるだろうし、組み合わせを間違えれば最悪。

以前こんな事が有った。あるお客様、僕の薦めたスピーカーでなく、他のスピーカーを秋葉原で買ってきた。ナンデ、って聞くと其処の試聴室で僕の薦めたスピーカーより、他のスピーカーの方が良く鳴っていたらしい。

エー、て思って僕もそのお店に。確かに酷い。そんな馬鹿なって、輸入元に貸し出しを頼んだ。僕の店に持って来た、輸入商社の担当者も、このスピーカーはピンキーさんの好みでは無いですよ。って言う。

でも、僕のアンプに繋ぐ。ハハハ。バッチリ。持ってきた担当者も、昨日まで置いておいた店では鳴らなかったんですけどねー。と首をかしげる。そのお店で使っていたアンプを聞いたら、確かに世の中では(雑誌では)評価が高いが、組み合わせを間違えている。僕も一応量販店で仕事をした事が有るので、世のアンプは大体判る。

一週間借りる事になり、先ほどのお客様に聞いてもらう。顔色変ってましたね。

昔から言うでしょう。馬には乗ってみよ、人には添ってみよ。スピーカーは傍らに置いて、散々使わないと本当の音は判らない。良いスピーカー程、出し惜しみするし、アンプへの人見知りも激しい。(この逆、つまり熟知したスピーカーを使って、知らないアンプの試聴。これは不思議とそのアンプの素性は解りやすい。)

自慢するわけではないが、僕はオイロダインを一度も聞かずに購入した。よそで聞いたって結局判らないし、気に成るんなら手元に置くしか仕方が無い。(僕は決してお金持ちでは有りません。5年ローンを銀行で組みました。良い時代で、銀行が金を貸したがっていた。今ならどうかな?笑)

僕の処で鳴っているオイロダインを聞いて、あるお客様が注文をくれた。

中古の輸入をしている所へ発注。数週間後入荷の知らせ。早速取りに行く。中古のスピーカーを買う時はインピーダンステスターが欠かせない。

輸入元に到着。とりあえず其処で鳴っていた。一応チェックをしているらしい。過去の名器と誉れ高いアンプで鳴らしているが酷い音。もし初めて聞いたオイロダインが、この音だったら僕も買わない。

テスターで調べると異常無し。持ち帰り僕の処で音を出す。いたって正常。

初めての場所で初めてのスピーカーを聞いて、判断できる人は、僕より耳の良い人と尊敬している。

                                                                                                                    2005.11.15

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