キャリパー分解。

最初から断っておきます。今迄ブレーキに関して、特にキャリパー分解は記載してきませんでした。リスクが大きいのです。

これからの記事は、この作業をお勧めするのでは有りませんし、もし行う場合は自己責任で行って下さい。

僕がこの作業を行う時、コンプレッサーとワンマンブリーダーを使います。勿論、楽に出来ると言うのも有りますが、確実な作業には必要と考えています。

本音を言いますと、アップしないと拙い状態に成ってしまった訳でも有るのですが・・・・・。

 

ワンマンブリーダーを写真の様にセット。ブレーキフルードは塗装を痛めます。万が一の時を考えて、バケツに水と雑巾を用意(フルードは水に溶けます)。

写真の様に8mmのメガネを掛けて置きます。短目が使い良いので、僕は片目を愛用。

マスターのタンクキャップを外し、その下のゴムのダイヤフラムも外します。

このダイヤフラムの働きは、パッドが減ると其の分ピストンが出て、フルードがキャリパー内に多くなり、其の分タンクのフルードは減ります(フルードの減る原因はパッドの磨耗です)。

タンク内のフルードが減った分、上の空気を増やさないと、内部が負圧に成りフルードが下に落ちていきません。

普通なら大気開放。

其処で問題。フルードは吸湿性が非常に強く、空気中の水分を取り込んでしまいます。そう成るとフルードの性能が目茶落ちてしまうんですね。

このダイヤフラム。手にとって見て下さい。柔らかく、下にビローーーンと伸びます。

つまりフルードの減った分、下に伸び、ダイヤフラムの上側は大気開放。

大気開放と同じ状態にフルードを置き、大気に触れさせない。

上手く考えた仕組みと思います。

チェックして、チョットでも亀裂、穴が見つかったら即交換。5年以上使った場合も交換した方が、精神衛生上良いですね。

たまにその辺を勘違いして、ピストンの戻りをこのダイヤフラムが助けている。ナンテ意見も聞きますが、ブレーキシステムを知らない人の意見です。無視しましょう(笑)。

外したキャップとダイヤフラム。綺麗な水でよく洗い、自然乾燥させます。

特にダイヤフラムには、パーツクリーナーは怖い場合が有りますので注意です。

フルードを抜きましょう。コンプレッサーのエアー圧は3kgも有れば十分です。

コックを全開にはしないで、エアーを出し、弱い負圧状態にします。

レンチをブリザーの六角部に掛けます。ブリーダーは最初の侭。

この写真では、どの位回したか判りませんね(汗)。

略90度です。其の程度で十分。レンチを架け替える事無く閉められる範囲です。

すぐにタンクのフルードは空に成ります。

この状態のブレーキシステムは、タンクからキャリパーのブリザーまで、繋がっている状態なんです。

十分抜き切ったらら(ホース内に残っているフルードも出したいので、数分引いた侭にして下さい)、ブリザーを閉め、ブリザーホースを外し。ホース内のフルードをワンマンブリーダー内に吸い込ませ、ブリーダーをオフにします。

バンジョーボルトを外します。まだフルードが残っているかも知れませんので慎重に・。

勿論キャリパー内にはまだ残っています。

下には容器を用意して置き、こぼれるフルードを受けられる様にします。

外れたキャリパーは、其の侭台所の流しへ。バンジョー取り付け穴を上にしてフルードをこぼさないように、流しで水道をシャワーにして、バンジョー口を下へ。

上から遠慮なくシャワー。内部に入っても気にしなくて平気。まあ無理して入れる事も無いんですが(笑)。

フルードを出るだけ出し切りましょう。ピストンを押し戻すのは、ピストンにキズを付ける恐れが有りますからNG。

シャワーを浴び、スッキリしたキャリパー。

さて、楽しみなピストン抜き。エアーの力で抜きます。

大変なのは、動き易いピストンだけが出て、残りはにっちもさっちも・・・・・・・。

僕は最後までピストンが抜けない様に5mmのアルミ板を挟み、ピストンは飛び出しますので、傷をつけない様ウエスをアルミに巻き、バンジョー穴からエアーを吹き込みます。

エアー圧力は最初は低め(2kg)から始め、抜けないようなら徐々に高めます。

ヤハリ、最初1個が飛び出し、と言っても最後まで抜けないので、エアーがもう一方のピストンを押し出しました。

此処まで抜けると、ピストンは手で外せます。

ピストンの抜けたキャリパー。

写真左の部品。此れを引き抜きます。するっと抜けなければNG。実は今回バラした理由が此れなんですね。最近ちょっと鳴きが出て来たのです。ほんの僅かですが僕は絶対にイヤ。鳴くブレーキはフィーリングも一流には成れません。レバーにパッドのビビリが伝わるんですね。

ちょっとキャリパーの働きを考えましょう。まあ単純に言えばディスクを両側からパッドで挟む。此れだけです。

対向ピストンの場合は両側のパッドの裏にピストンが有りますから、構造は簡単です。

問題はこの様な片押しキャリパー。ピストンが片側だけ。ピストンの無い側のパッドはどうやってディスクに押し付けているんでしょう?

上の写真をよく見て下さい。フォークに取り付けられているのは左のパーツです。

キャリパー本体は、二本のシャフトで支えられているのです。つまり左右には自由に動けるのですね。

つまり、レバーを握る、フルードがキャリパーに入ってくる。ピストンを押し出す。ピストン側のパッドがディスクを押す。其の力がキャリパーを写真右へ動かします。

結果左の固定して有るパッドもディスクを押す。

この様な動作なのです。つまり単純に言いますと片押しキャリパーのピストンは対向キャリパーの倍の距離を動かないといけないんですね。

なぜ片押しが必要かと言いますと、ホイールとキャリパーの距離です。ピストンが裏側にも有ると、その分出っ張り、ホイールとの隙間が無くなるのです。キャストホイールならスポークのデザインで逃げる事も可能ですが、スポークホイールはきついんですね。

でも、STはフォークの間隔が広いですので、対向も装着可能と踏んでいます。

で、このキャリパー。左右への動きが渋かったのです。

抜いて見ると一目瞭然。グリスが硬化しています。僕のグリスの選択ミスですね。

高品質は謳っていたので、リチウムグリスをチョイスしてしまったのです。

今回は片側にシリコン、もう一方にウレアを入れてみます。

同じにしないのには僕なりの考えが有ります。組み立て中に説明しますね。

ちなみに此処のグリスはスズキ純正が有りますので、それの使用が一番心配有りません。

完全に変質したグリス。この色は水分を含んで乳化した色です。新潟往復でやってしまった様です。

キャリパーをパーツクリーナーでジャバジャバ洗いますから、取れるものは全て外します。このプレートは右側の爪をラジペンでつまめば簡単に外れます。

片側二個のシールリングを外した所。汚いですね。これから柔らかいブラシとパーツクリーナーでゴシゴシ。

此処までバラす事ってそうは無いですから、ガンガン掃除をします。只材質は柔らかいアルミですので無理厳禁。

特にピストンの入るシリンダー内面は慎重に。

KTCの特殊工具。キャリパーのシールリングを外す専用工具です。安い工具ですので、此処までする人には必須。

先がこの様に丸まっていて、材質も生鉄の柔らかい物です。キャリパーの溝に、キズをつけたくないのでしたら、用意をしましょう。

先程のスライドピンもチェックです。ちょっとでも段付き磨耗が見られたら交換です。

外したピストン。こんなに汚れています。表に出ていた部分に付いている汚れはブレーキ熱で焼きついています。

先程ピストン押し込み厳禁。と言った意味が判りますよね。

でも、フルードを交換するにはピストンを押し込まないと、キャリパー内のフルードの交換が出来ません。

つまり、フルード交換やパッド交換で、ピストンを押し戻す必要が有る時は、キャリパー分解が正しい方法です。

しないで・・・・・・・。ハイ、単に手抜きです(僕もやりますが、汗)。僕がやる場合は近々バラすと判っている時だけですが・・。

もっとも、ブレンボのオムスビは、ダストブーツが良く出来ていて、ピストン外周が汚れません。この場合は押し戻せます。

4ポットはダメデスヨー。

お約束。さびとりつや之助君。まあ性能よりも、このネーミングが気に入って使っているのですが・・(笑)。

台所用の液体クレンザーで平気です。

どちらも、微細な研磨剤が入っていますので、使った後はパーツクリーナーで念入りに取り除きます。

新しいゴムブーツを組んだキャリパー。

此方は単なるダストブーツ。シャフトと穴での金属同士の擦れ合いです。此方はウレアグリスを詰め込みました。

問題は・・・・・・・・・。

一見、同じに見えます。でも左に飛び出しているゴムパーツ・・・?

外すとこんな形状。つまりこちら側のシャフトは穴の金属部分と直接触れ合わないで、ゴムを介してなんですね。

態々こんな仕組みにするのにはなぜでしょう?

僕の感じでは、二つの穴と二つのバー。両方のピッチ(間隔)を完璧に合わすのなんて無理ですよね。

で、ゴムで逃げた。そんな所だと思います。

で、ゴムと金属の滑りに良いグリスは・・・・・・?

と言う事で、シリコンをチョイスしました。

勿論此れが最高かは判りません。

只、10000kmを越えて、初めて開けた時、純正グリスは良好な状態を保っていましたので、臍曲がりで無い人は純正の使用をお勧めします。

グリスをタップリ塗り差し込みます。動かしてみて、ちょっとでも渋いようでしたら、もう一度分解。グリスアップ。

なんせ、ゴムと金属を滑らせるんですから・・・。

僕の場合、組んですぐはスムーズだったのに、1時間置いたら、スムーズさが無くなっていました。

勿論、分解組みなおし。

で、僕の場合、此処が一番の問題点でしたので最初に組んでしまいましたが、単なるメンテでしたら、この作業は、ピストン挿入後の方が、ピストンを楽に入れられます。

ピストン挿入前に、フルードを容器に準備します。

組み立てる部品は、全てフルードで濡らしてから組む為です。

シールリングを其々2個ずつ入れるのですが、奥のリングはフルードで十分濡らして組み込み。

手前は其の侭。

其の状態で指先にフルードを付け、4個のリングとアルミシリンダー部にフルードを塗りつけます。

次に、ピストンの表面もフルードで濡らし、ユックリと真っ直ぐに(ちょっとでも斜めに成ると入りません)ピストンを挿入。

組み終わったキャリパー。ピストンは一番奥まで入れます。

パッドをつければ完成です。

って、今迄なら此の辺でやめちゃうんだけど・・・・・・。

パッドの組み方も、単に入れればOKとも言えますが、鳴かないで、良いタッチが欲しかったらちょっと工夫を・・・・。

此れがパッドを組むのに必要なパーツ。

オット、この前に中に入る板ばねは組んでおきます。パッドを入れたら入りません。

まず、ピストン側のパッド。ピストンの当たる所へ薄っすらとパッドグリス(他のグリス使用厳禁)を塗ります。写真は判りやすくする為に、塗り過ぎにして有ります。パッドが新品でしたら、裏の平面出しは必須です。

ガラス盤の上に400番のサンドペーパーを置いて、ゴシゴシゴシゴシ。平面が出るまで頑張ります。

パッドの角にも少々グリス。塗り過ぎ厳禁。

キャリパー側も、パッドのサイドと当たる部分にグリス。この金属部は下も当たります。

同じく・・。

此れが出来たら、ピストン側のパッドを組み付けます。

反対側のパッドも同じ処理。此方はピストンではなく、3本の爪です。

このピンにもグリス。写真は中心部だけですが、全体に。

パッドピンにもグリス。

パッドピンを差し込んだら、パッドとキャリパーの間に見える小穴にRピンを差し込んで完成です。

さあ、次はワンマンブリーダーの活躍です。

エアー抜きのついているバンジョーボルト。メーカー出荷時のバイクに付いていないのが不思議。エアー抜きの必需品。

マスター交換の時に交換しようと準備していました。

ところがラジアルポンプには最初からエアー抜きバルブが付いていたのですね(笑)。

僕にとっては不要に成りました。

キャリパーを取り付けます。取り付けネジのガタが有ります。キャリパーをディスク回転方向に押し付けて、取り付けネジを締め付けます。

自信のない方は、トルクレンチを使用。

ブレーキホースを取り付けます。ガスケットは新品を使用。締め過ぎますと、バンジョーボルトが穴の所で伸びるので注意です。ガスケットがつぶれる感触が終った所でストップ。

最初にフルードを抜いた時と同じセッティングです。マスター側にエア抜きが有る時は、マスターのエアを最初に抜きます。

フルードを略満タン。こぼれると大変なので程々に(笑)。

何かの拍子にハンドルが切れますと、フルードを撒き散らしますので、何らかの方法で固定をお勧めします。

まず、ワンマンブリーダーをON。次にキャリパーのブリザーを緩めます。

最初はエアーだけを吸いますのでホースの中には何も見えません。

マスターのタンク内のフルードは減ってきますので、空にしてエアーを吸わせない事。

此処で、エアーを吸わせるとやり直しです。フルードの減った分継ぎ足します。

下のホースからフルードが見えてきますが、止めません。マスターのタンクが空に成る寸前に補給。減ったら補給。此れを3回はします。

此れで殆どのエアーは無く成っていますがマダマダ。

キャリパーブリザーを閉め、ホースを外し、ブリーダーをOFF。

此処で初めて、ブレーキレバーをニギニギ。数回握りますと、ピストンが定位置まで出て、レバーが硬く成ります。この時もフルードが減るので注意です。絶対にタンクからエアーを吸わせてはいけません。

普通は此処でフルードを継ぎ足してご苦労さんでした。なんですが、しつこいピンキー君はまだ駄目。

もう一度、ブリザーホースを繋ぎ、ブリーダーを働かせます。ブリザーボルトを緩め、キャリパーを横から力いっぱい押して、ピストンを出来るだけ押し込むのです。

つまり、キャリパー内に残っているエアーを押し出すんですね。

2mmも押せれば結構エアーは出ます。

そうしたら、ブリザーボルトOFF。またレバーをニギニギ。またもやブリザーを働かせピストン押し戻し。

此れを3回繰り返したらOK。

ブリザーボルトを締めて、レバーを握って見ましょう。カチッとしたタッチならOK。グニャならしつこく最後の作業の繰り返し。勿論タンク内のフルードは減ってきますので、補充を忘れず。

STのキャリパーは、上側のピストン裏のエアーは抜け易いのですが、下側が結構しつこいのです。

内部構造を見ればハハ〜〜〜ンと判る筈です。

エアーが抜けたかどうかの確認に、1回レバーを握ったストロークと、素早く数回握った場合のストローク。後者の方がストロークが短い様でしたら、エアーが残っている可能性大です。

ニヤッとするタッチが出たら・・。

アッ、鼻血が・・・・(笑)。ブリザーボルト内に残っているフルードを吸い取っているのです。

残っていると、水分を吸って白い粉だらけに。

勿論ゴムキャップも大事なパーツです。切れていたら交換です。

フィニッシュ。

タンクにキャップをつけて完成。

お疲れ様でしたー。

どうしてもタッチが今一の時は、一晩ほって置きましょう。エアーが上に上がって来て翌朝はOKと言う場合も有ります。

其の場合はハンドルを目いっぱい左に切り、レバーを引いた状態で固定(紐でレバーを縛る)。

一晩待ったら、レバーを開放。二〜三度レバーを握るとあら不思議。タッチがカチという事も有ります(笑)。

エアー抜きのコツって無いんですよね。しいて言えばしつこさだけ(汗)。

 

最後に・・。

フルードは吸湿性が大きいです。湿度の低い日に作業しましょう。僕はエアコンを目いっぱい働かせて作業します。

キャリパーのゴムパーツの再使用は勿論NG。

で・・・・・・・・。アップするんで丁寧に作業した所為かなー。今迄で一番良いタッチ(大汗)。

 

追記です(裏技)。

ブリーダーでエア抜きをしますと、キャリパーのブリザーボルトのネジ部からエアーを吸い、何時まで待っても、泡が消えないで、エアーを抜ききっていないと勘違いをし易いです。

新型のハスコーは、このネジ部にゴムを被せて、エアーを吸わせなくして、泡が消えたら完了って解る様にしました。

要はネジ部からエアーを吸わなきゃ良いのですから、此の辺の勘所がつかめない時は、ブリザーボルトのネジ部にグリスを塗りつけるのです。

グリスでエアーが吸えなく成りますから、ホース内に泡が見えなくなったら、エアー抜き完了です。

 

2010.9.22

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